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よがらし日々迷走記

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『異星人の郷』が星雲賞受賞!


 去年10月に出たマイクル・フリン『異星人の郷』

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嶋田洋一訳 東京創元社

 なぜいまこの本かというと、先日、星雲賞が発表されて、この作品が海外長編部門賞を獲得したから。

 星雲賞は例年、SF大会で発表されていたが、今年は試験的に、この時期の発表にしたとのこと。

 意外にも、嶋田洋一さんの長編部門受賞は、これが初だそうで、やあめでたいということで、こうやってひっぱりだしてきたわけです。

 いま気がついたけど、帯に書いてある「宇宙船が墜落」は、ちょっと微妙だね。「乗り物が漂着」が正しいんじゃない?

 という話はおいといて。

 14世紀、ドイツの上ホッホヴァルト地域にクレンク人という異人たちがやってきて、その異人と地元人間の交流を、司祭の視点から描くという、そーいうストーリー。 ネタバレになってないよね。(^^;

 えーと、私が読んだのは今年の1月。前半はとにかく非常におもしろい。

 この、中世ドイツの描写っていうのが、じつに生き生きとしていて、しかもほぼ史実どおりに描かれているのが、まず第一のツボ。

 で、このルネサンス前夜というのは、とにかく「暗黒の中世」っていう認識が強かったんだけど、そうじゃない。中世なりにすごく論理的にものごとを考えていたり、類推したりして、結局この異星人をうけいれちゃうっていうのが、ある意味でこの作品のいちばんすごいところ。これが第二のツボ。

 さらに、これは現代SFなら当然だけど、クレンク人のつくり方も巧妙で、進化の過程から肉体的な特性、そこにひそむ悲劇の萌芽、みたいなものも非常にうまく書きこんである。

 そして! 村の人間たちとクレンク人が手を結んで、快進撃するあたりになると、なんつーかローダンっぽく痛快で(笑)、これが第三のツボ。

 という感じで、好き者のツボを押さえまくった作品になっているのであります。

 創元社さんもきっと増刷すると思うし、これを機会に、濃厚な本格SFもどうぞ。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

 これで終わりなら、読了した1月の時点でブログに載せてるわけですが、ぢつはすこし気になる点もあったりして。(´・ω・`)

 なんというか、小説のプロットがきっちりしすぎているんですよ。そのため、後半の途中から、予定された滅びに向かっていくところで、先が見えちゃうぶん、痛いのね。

 そこまで痛快だっただけに、なんというか、読み進むのがつらくなっちゃったのも、事実であります。まあ、実際は勢いで最後まで読んじゃったわけですが。

 ひと言で表現すると、「ここまで律儀に描かなくてもいいんじゃない?」って感じで。

 とくに、この作品は日本でいう「伝奇」的な手法をもろに使っているわけで、それなら最後の収束部分も、伝奇的にやったりすると、もっと読後感がよかったんじゃないかと思うのです。つまり、曖昧に、ということかな(笑)。たぶん。

 それでも、中世パートはまだいいんだけど、現代パート(というのがあるのです)がどうももっさりというか。本音でいうと、このへんがすっきりしなかったのです。はい。

 とはいっても、それで作品の価値が下がるというような問題じゃありません。その点は保証します。

 むしろ、欧米人には伝奇は書けないんだろうなあと、そのへんのメンタリティの違いを認識しちゃったのが、かえっておもしろかったりして。
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国枝史郎


「好きな作家は?」と聞かれたら、海外ではJ・G・バラード、マイクル・ムアコック、日本では半村良、都筑道夫、国枝史郎と答えるようにしている。あんまり一貫性がないようにも見えるけど、まあしかたない。

 都筑さんは文章がとにかくうまい。バラードは不思議な終末観が大好物。で、あとの3人に共通しているのは、伝奇的要素になるかな。 ムアコックは伝奇だよね~、という話はおくとして。

 10数年前、実家を処分するときに、蔵書や大量のガンプラなんかも処分したわけだけど、このへんの作品はけっこう久喜にもってきた。で、こないだ、なにかを探していたら、ついでにこれが発掘されたわけです。

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 国枝史郎伝奇文庫@講談社。 全28巻、ぜんぶ買ったけど、持ってきたのはそのうち代表作と思われるこの9冊だったらしい(発掘もれの可能性もあり)。

『神州纐纈城』上下、『蔦葛木曽梯』上中下、『あさひの鎧』上下、『八ヶ岳の魔神』、短編集『怪しの館』。

 たしか、最初に国枝史郎を読んだのは、たぶん桃源社から出ていたハードカバー版『神州纐纈城』だったと思う。

 当時の桃源社は押川春浪の『海底軍艦』とか、海野十三『火星兵団』『地球盗難』とか、そうだ、都築さんのなめくじ長屋シリーズも、最初は桃源社だったかも。つまり、好物の作品ばっかり出してた出版社だったのです。

 それで、『纐纈城』を読んですげーなと思って、同じ神州つながり(笑)で吉川英治の『神州天馬侠』を読んだりしていたら、そのうち講談社が、横尾忠則のカバーデザインでこの文庫を出したもんだから、もちろん全巻買ったという、そーいう作品群。

 ちらっと読んだんだけど、やっぱりすげーですよ。ほんとに。

 いまはすべて絶版なのかな? とにかく、古書店でしか入手できないみたいですが、見つけたらすくなくとも1作品は読まないと。人生観が変わっちゃうほどインパクトのある作品群ですから。

 あと、青空文庫でもけっこう読めるようで。でも、これは紙媒体で読みたいよねー。

あした、『ZIP!』で


 あした10日は、こないだ書いたとおり、ろーだん第400巻『テルムの女帝』の発売日だったりする。

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 訳は350巻につづいてよーいち先生。

 それで、あしたの日テレ系の朝情報番組『ZIP!』というので、この400巻を紹介するそうだ。

 といっても、紹介するのは「内容」というより、「物量」でしょうが。400冊をばーんとうつすらしいから。いつか撮った……これと同じ感じでしょう。

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 たしかに、この物量は感銘をうけるかもね。

 オンエア時間は番組冒頭、午前5時53分から55分にかけてとのこと。

妙珍

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『諸星大二郎ナンセンスギャグ漫画集 妙の巻 珍の巻』ジャイブ刊

 しかし、こんなのまで発行しちゃうのがすごいっすよ。諸星さんには固定ファンが多いからなあ。なんちて、さっそく買っちゃうわけですが。

 諸星大二郎のなんというか、ごみ溜めみたいな作品集。未見のものもかなりあるし、なかにはデビュー前の習作もはいってる。

 とはいえ、「妙の巻」には、「奇妙なレストラン」や「コッシー譚」といった初期の佳作や、『月刊OUT』に掲載された作品群なんかも収録されていて、ファンならなつかしいでしょう。

「珍の巻」はなんというか、ぐしゃぐしゃで(笑)、怒々山博士シリーズ(シリーズっていうのか?)がいちばん知られてる作品かな。なつかしき『COM』で佳作だった(掲載はされなかったらしい)習作とか、未完で無題の習作とか、これはほんとにすごい。

 とにかく、ファンじゃなかったら怒るような内容なんだけど(笑)、ファンなら必見の2冊でありましょう。

 個人的には、81年の作品にもう「テケリ・リ!」が出てきたのが印象的。かなり初期からラブクラフトを読んでるんだ。『魔界水滸伝』より早い。えーと、正確じゃないけど、アレは創土社の傑作集に収録されたやつだったはず。

 ちなみに、80年ごろのクトゥルーの認知度については、ここに書いとります。

ティプトリー・Jrって


 女だったのね~。orz

 まったく知らなかった。orzorz

 左のリンク集「似た趣味の人々」にはいってる、Cafe Tsumireさんのブログの「よしながふみ「大奥」、「ティプトリー賞」受賞」を読んで、はじめて知ったっすよ。

 よしながふみさんの『大奥』は斯界では有名だし、ドラマ化されるんだっけ? そーいう意味でメジャーなんで、内容は省略。

 それより驚いたのが、ジェイムス・ティプトリー・Jrが女流だったってことで。

 だって、わしのイメージでは、ずっと「酔いどれのおっさん」だったんだもん。SFマガジンは86年くらいまではちゃんと読んでたけど、その後は知らないしなあ。

 wikipediaで見てみたら、アメリカでも「ティプトリー・ショック」という震撼があったそうだし、きっと日本でも衝撃がはしったんだと思うけど、ぜんぜん知らなかった。orz

 小谷さんが先週からウィスコンに行ってるのも、 『大奥』の受賞と関係あるんでしょうね、きっと。ウィスコンには毎年行ってるんだっけ? 完全内輪モードだけど、ショックが大きすぎたってことで勘弁。

 いやー、世の中はセンス・オブ・ワンダーに満ちてます。

 あらためて、すごいぞ、SF。

工藤稜さん


 ついさっき、情報が解禁になったと連絡があったので、さっそく。

 そういうわけで、ローダン・シリーズをスタート当初から支えてくださっていた依光隆先生が、今年いっぱいで引退されることになった。

 先生については、書きたいことがいっぱいあるが、それはまたいずれ。371巻のあとがきで書いたので、それが発行されたあとにでも。

 で、依光先生にかわって、1月刊行の368巻『星間復讐者』からカバーを担当していただくのが、工藤稜さんである。

 じつのところ、工藤さんとはまだ直接にお会いしたことがないんだけど、とにかく画を見てちょうだい。

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 これはご自身の画集『HEROES英雄群像伝』(光文社 06年4月刊)だが、オビで島本和彦さんが書いているように、魂のこもったイラストが、快感をおぼえるほどすごいのですよ。

 実際、この画集の表紙を、オビをとった状態でとーこちゃんに見せたところ、第一声が「魂がこもってる」だったもんね。

 こういう感じで、特撮ヒーローものがらみのお仕事を多くされているほか、歴史上の人物も多数描かれていて、その意味でもローダンにぴったりなのであります。依光先生の世界観をうけつぐという意味でも。はい。

 9月アタマに工藤さんを起用することになったと聞いて、すぐこの画集を見つけて手に入れたんだけど、これを見ただけで、この人なら安心と思ってました。

 でもね、10日前かな、いざ実際にできあがった作品を見たら、あまりにもイメージにぴったりなので、マジで感動さえおぼえましたよ。ほんとに。

 ということで、その作品を。

 じゃーん。

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 これが368巻のカバー!

 どうですか、お客さん。みごとすぎるでしょう?

 力強い。生気にあふれている。

 これ、依光さんの画じゃないのよ。工藤さんの画なのよ。ここがすごい。

 そこが工藤さんなのです。つか、工藤さんの作風なのだと思います。ええ。

 しかも、これはまだ「挨拶がわり」らしくて、さらにすごい画が次々に完成しているそうなので、乞うご期待。なかでも、ケロスカーの画が超絶らすい。(´・ω・`)

 工藤さんご自身のサイトはこちらの『くま画廊』

 ハヤカワ・オンラインの新着ニュースはこちら

【追記】
上記『くま画廊』はいま更新できないとのことで、最新情報はブログ『描いたもの』のほうをどうぞ。

『光瀬龍 SF作家の曳航』


 つい先日知って、速攻で買って、まだぜんぶは読んでないんだけど。

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『光瀬龍 SF作家の曳航』ラピュータ刊 大橋博之責任編集 2400円

 光瀬さんの没後10年メモリアルということで、命日の7月7日に刊行されたそうだ。ぬかった。知ってれば予約したものを。さいわい、初版が手にはいったからよかったものの。

 いやもうこの本はすごいっす。第一。アマチュア時代の習作をふくめ、書籍未収録短編が復刻されている。第二。キャナルの主要刊行物をはじめ、膨大な資料を丹念に集めて、年代順に編纂している。第三。私の知らない情報もはいってる。

 1はまあおくとして、2はすごいのひと言だ。光瀬さんが『キャナリアン』(東キャナル市民の会の正会報)に寄稿したエッセイとか、『東キャナル年鑑』(同正会誌)の文章とか、このへんまで網羅しているとは思わなかった。もしかして、会員だったとか?そうじゃないのは、なかを読めばわかりますけど。(^^ゞ

 3はまあ、私の知らないこともいっぱいあるから、そう不思議でもないけど、奥さんは高校教師時代の教え子だとばっかり思ってた。考えてみれば、年齢が微妙にあわないよね。(^^;

 欲をいえば、とりあげてもいいのにと思った情報がはいってないのも、かなりある。たとえば、三好京三さんのことは避けてとおれない話だと思うし(ぜんぶ読んだわけじゃないんで、書いてあるかもしれないけど)、今日泊さんの名前もない。

 口絵の「レーシングカー」の写真は、もしかすると今日泊さんの家じゃないかと思うんだよね。 このキットが今日泊さんの家にあったのは、実際に見てるし。

 飛行機……とくに二式大艇の話もないし、プラモデルも。

 このへん、エッセイにはなかったとしても、解題のなかで紹介できれば、もっとよかったはずですが。

 とはいえ、とくに若い時代の光瀬さん像というのは、これまでキャナルの人間くらいしか知らなかったわけで、それをここまで掘りおこした大橋博之さんはおみごとです。とくに編集は、編集者がうらやましがる仕事でした。

 こういう本をつくってくれたことに感謝したいですよ。ラピュータの松永さんにも感謝。

 ひとつ、くやしいのは、これを編集したのがキャナルの人間じゃないってこと(笑)。

 そういや、3年くらい前、永瀬先生に「光瀬さんの評伝を編集するのは、よがちゃんしかいないだろう」と、いわれたのを思いだしたぞ。いましたよここに。大橋さんが。

 どういう人なのか、すごく興味がありますが、そのうちお会いすることもあるでしょう。早ければ来年のTOKONあたりで。

#それにしても、光瀬さんが亡くなって、もう10年たったんだ。 光陰矢のごとしであり
  ます。

#そういや、この本の存在を教えてくれたのは「リーミン」さんなんだよな。これも因縁
  っぽいかも。

#そうか。なぜこれほど興奮するのかと思ったら、この本には、わしの20代前半の歴
  史もつまってるんだ。『キャナリアン』をまた読む日がくるとは思わなかったもんな。
  やっぱり同人誌はつくっとくもんです。はい。

気がつけば2500


 訳者校は時間に余裕があると、土日にやることにしている。とくに意味はないんだけど、なんとなく。この週末は、9月だか10月に出るぶんをやっていた。

 で、調べることが発生して、久しぶりにドイツのオフィシャルサイトをのぞいたら、出てましたよ~。

 2500話!

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 タイトルは「Projekt Saturn」、著者はFrank Borschとのこと。先月17日の発行で、新サイクル「スターダスト」の開幕編らしい。くわしくはこちら(なんだかすごく重いので、そのつもりで。あと、ドイツ語です)。

 スターダストで、プロジェクト・サターン? 1971年に還るのか? そーすると、この土星にも「地面」があるのか?(^^;;;

 まあつっこみは置いといて、「どうでもいいけど、よくつづけるなあ」と、いうのが、正直な感想ではあります。はい。

 

『紙葉の家』書評


 ついで。話題に出た『紙葉の家』の話もすこし。

 以下はろーだん・シリーズ290巻『サイコ・ヴァンパイア』のあとがきを、ブログ用に修正したものです。

 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

 今年になって、わたしのまわりである本がささやかなブームになっている。『紙葉の家』(マーク・Z・ダニエレブスキー著 嶋田洋一訳 ソニーマガジンズ)という小説だ。3月にはいって、あちこちの書評でとりあげられているから、読まれた方も多いだろう。

 ストーリーは……ここからして説明しきれないほど複雑怪奇。

i.まず、実在したフォト・ジャーナリスト(実際は南アフリカ人だが、アメリカ人に設定しなおしている)がホームビデオで撮影した、幽霊屋敷との"戦い"を描いた「ネイヴィッドソン記録」という一連の映像があり、

ii.盲目の老人がそれに衒学的注釈をつけていった膨大なメモが、異様な状況で発見され、

iii.発見者の青年がさらにおびただしい脚注を追加し、ついでに自分の日記まで織りこんだ"作品"のタイトルが「紙葉の家」で、

iv.出版社がまたまた編注やら資料をくわえて発行したという、四重の重層構造になっていて、i~iiiそれぞれで物語が展開されるのだ。

 もとになる"記録"が幽霊屋敷譚だし、老人のメモが発見された状況や、青年をとりまく環境も猟奇的になっていくから、ジャンルとしてはホラーになるようだが、全編に著者の"遊び"があふれかえっていて、にやにや笑いながら読みすすめるうち(とくに『ブレアウィッチ・プロジェクト』を彷彿させる部分などは絶品!)、じつはその根底に、アメリカの"家庭"……家族・親子・肉親の絆や家庭崩壊といった、シリアスなテーマがあることに気づかされ、そこで真の恐怖……というより、もっと漠然とした"不安"につきあたり、最後は(読者によって印象が違うかもしれないが)そうした不安を内在するがゆえのカタルシスも得られるという、とてつもなくトリッキーな作品なのである。

 その印象をさらに深めるアイテムとして、ベスターの『虎よ、虎よ!』をもっとぐちゃぐちゃにしたようなページ構成、英語だけでなく、独仏スペイン語からヘブライ語、ギリシア語、ヒンディー語、はては点字までがちりばめられた本文(余談だが、ヒンディー語については、わたしの妻が翻訳に協力したそうだ)、"付属"する写真やコミックなど、ギミックもたっぷり。もちろん、ぜんぶフィクションなのだが、実在する人物のコメントもふんだんに出てくるので、ついだまされてしまうことがたびたびあり、これがまたおもしろかったりする。

 こういう本だから、SF仲間がほうっておくはずがない。さっそく、1月中旬に評論家の小谷真理さんが朝日新聞夕刊の書評でとりあげたのをかわきりに、その数日後には永瀬唯さんが、「読破したぞ。すごい傑作だぞ!」と、興奮して電話をかけてきて、あやうく最後の展開をばらされそうになり、やがて「○○さんはまだ読み終わっていないらしい」とか「○○さんは不要な脚注もぜんぶ読んだらしい」というような噂が飛びかいはじめ……と、一篇の小説でこれくらい盛りあがったのは、近ごろではめずらしいほどだった。

 わたしはといえば、正月に読みはじめてすぐハマってしまい、読了するのがもったいないので、じっくりゆっくり、1カ月かけて楽しんだ。これだけのめりこみ、耽溺できる作品に出会ったのは……クライヴ・バーカーの『血の本』シリーズ以来だから、15年ぶりくらいだろうか。とにかく、文句なしの大傑作だ。といっても、バーカーやクーンツといったタイプのホラーとはまったく違う。著者はホラー小説・映像の作法もギミックのひとつととらえ、それで"遊んで"いるのである。

 装丁からして凝りに凝っているし、ぜんぶで800ページ近くの大著だから、最初はとっつきにくいかもしれないが、時間があれば……時間がなくても、ぜひご一読を。

『ウォッチメン』読了


 やっと読み終わりましたよ、『WATCHMEN ウォッチメン』。前のエントリはこちら

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 これは「小説好きに捧げるアメコミ」ですね。ひと言でいうと。もちろん、アメコミっていう形式をとっただけで、グラフィック・ノヴェルといってもいいし、たんに小説といってもいいでしょう。小説がかならずしも、文字媒体である必要はないわけで。

 逆に、ローダンは文字で表現するコミックといってもいいし。それはおくとして。

 この作品の複雑怪奇さは、ある意味、80年代以降のアメリカ小説と共通するものがあります。個人的には、そういう小説にうんざりしてるんですが(さんざん読んだあげくにね)、これはコミックという体裁をとっているぶん、煩雑さが緩和されていて、1日に30分とか、1時間しか読めない読者でも、最後まで興味をとぎらせずに読了できるんじゃないかと思います。たぶん。

 もちろん、もっと時間がある人は、いっきに読んでもいいわけで。たぶん12時間くらいはかかると思うけど。

 それにしても、うまいね。作品のつくりかたが。

 スーパーヒーローが実在する世界、ニクソンがまだ大統領をやってる1985年の世界
……東西の緊張が極限まで高まった世界を舞台に、その全設定を巧妙に使って、ヒーローが最終戦争を回避しちゃう。

 ごくおおざっぱにいうと、こういうストーリーだけど(最初は犯人探しのミステリーだけどね)、そのなかにどろどろとした、汚穢みたいなサイドストーリーがこれでもかっつーくらいに詰まってるわ、暗喩たっぷりの劇中劇というか、コミック中コミックが展開されるわ……という、想像を絶した物語世界が展開されるのです。

 なかでも、最終戦争を回避する方法が、これがすごい。いままでごくふつうにいわれてて、だからだれも作品にしなかった方法を、臆面もなく使ってるんですよ。ところが、この方法を成立させるには、スーパーヒーローが実在する世界が必要なのね。

 このへんの構造が、なんともいえず、魅力的なのです。

 また、たとえば上記のコミック中コミックに、さらに書評が添付されていたりする構成は、例の世紀の奇書『紙葉の家』を彷彿させます。いや、かなり色濃く影響をうけてる感じだな。もちろん、『紙葉の家』のほうがあとで書かれてるんで(2000年刊)、こっちがですが。

 そう、ある意味、これが『紙葉の家』の原点なのかも。

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 というわけで、ならべて記念写真を撮ったりして。この2冊をともに読破したっていうのは、自分にとっては大きな事件だったといっていいでしょう。

 ともあれ、自分が読書人だと思う人は、これは一読したほうがいいっす。それだけの価値はあります。

 あと、映画については……これだけの内容を数時間につっこむのは不可能なので、たぶん原作の10分の1も描けてないでしょう。予告編を見るかぎり、そう思います。はい。これは映画より原作のほうがいいよん。きっと。

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